素数 $p$ に対するある多項式のGalois群の決定

本稿では、素数 $p$ に対する特定の $p$ 次多項式の有理数体 $\mathbb{Q}$ 上での Galois群 (Galois group) が、対称群 $S_p$ になることの完全な証明を与える。議論の飛躍をなくし、自己完結的 (self-contained) な解説となるよう、基礎となる概念の定義や定理の証明、具体例の計算から詳述する。

1. 問題設定

素数 $p$ に対して、以下の $\mathbb{Q}$ 係数多項式 $f(X)$ を考える。

$$ f(X) = X^3 \prod_{k=1}^{p-3}(X-2k) - 2 $$

ここで、積の記号 $\prod$ は $p=3$ のとき空積となるため、$1$ とみなす。このとき、多項式 $f(X)$ の $\mathbb{Q}$ 上の Galois群が $p$ 次対称群 $S_p$ と同型になることを証明する。

2. 基礎概念と定理の準備

定義 1 (Galois群 / Galois group)
多項式 $f(X) \in \mathbb{Q}[X]$ の分解体を $K$ とするとき、体の拡大 $K/\mathbb{Q}$ の自己同型群 $\operatorname{Gal}(K/\mathbb{Q})$ のことを $f(X)$ の Galois群と呼ぶ。Galois群は、多項式 $f(X)$ の根の置換群として自然に作用する。
定義 2 (推移的 / transitive)
群 $G$ が集合 $X$ に作用しているとする。任意の $x, y \in X$ に対して、ある $g \in G$ が存在して $g \cdot x = y$ となるとき、この作用は推移的 (transitive) であるという。既約多項式の Galois群は、その多項式の根の集合に対して推移的に作用する。
定理 3 (Eisensteinの判定法 / Eisenstein's criterion)
整数係数多項式 $f(X) = a_n X^n + a_{n-1} X^{n-1} + \dots + a_0$ について、ある素数 $q$ が存在して以下の3条件を満たすとき、$f(X)$ は $\mathbb{Q}$ 上既約である。
定理 4 (Cauchyの定理 / Cauchy's theorem)
有限群 $G$ の位数が素数 $p$ で割り切れるならば、$G$ は位数 $p$ の要素を持つ。
補題 5 (対称群の生成)
$p$ を素数とする。 $p$ 次対称群 $S_p$ の部分群 $G$ が、推移的 (transitive) に作用し、かつ互換 (transposition) と長さ $p$ の巡回置換 ($p$-cycle) を含むならば、$G = S_p$ である。
補題 5 の証明

$G$ は互換 $\tau$ と長さ $p$ の巡回置換 $\sigma$ を含むとする。要素を適当に並べ替えることで、 $\sigma = (1, 2, \dots, p)$ と仮定してよい。このとき、 $\tau = (a, b)$ ($1 \le a < b \le p$) と表せる。

$k = b - a$ とおく。 $p$ は素数であるから、$k$ は $p$ と互いに素であり、 $\sigma^k$ もまた長さ $p$ の巡回置換である。要素を再度並べ替え、 $\sigma^k$ の作用を新たな $(1, 2, \dots, p)$ と見なすことで、 $\tau = (1, 2)$ と仮定して一般性を失わない。

ここで $\sigma \tau \sigma^{-1}$ を計算すると、$(\sigma(1), \sigma(2)) = (2, 3)$ となる。同様に $\sigma^m \tau \sigma^{-m}$ を順次計算することで、すべての隣接互換 $(1, 2), (2, 3), \dots, (p-1, p)$ が $G$ に含まれることがわかる。

任意の互換は隣接互換の積で表される。例えば $(1, 3) = (2, 3)(1, 2)(2, 3)$ である。対称群 $S_p$ は互換全体によって生成されるため、すべての互換を含む $G$ は $S_p$ 全体に一致する。

$\blacksquare$

3. 具体例による観察

一般の証明に入る前に、直観的な理解を深めるため、$p=3$ および $p=5$ の場合を具体的に観察する。

例 1: $p = 3$ の場合

積の部分が空積となるため、$f(X) = X^3 - 2$ である。この方程式の根は実数根 $\sqrt[3]{2}$ が1つと、虚数根 $\sqrt[3]{2}\omega, \sqrt[3]{2}\omega^2$ ($\omega$ は1の原始3乗根)の2つである。

Eisensteinの判定法(素数 $q=2$)より $\mathbb{Q}$ 上既約であり、分解体 $\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}, \omega)$ の拡大次数は6である。根の集合 $\{ \sqrt[3]{2}, \sqrt[3]{2}\omega, \sqrt[3]{2}\omega^2 \}$ に対する複素共役は、虚数根の2つを入れ替え、実数根を固定する。すなわち互換として作用する。群の位数が6であり、推移的かつ互換を含むため、 Galois群は $S_3$ に一致する。

例 2: $p = 5$ の場合

$p=5$ のとき、$2(p-3) = 4$ であるから、多項式は $f(X) = X^3(X-2)(X-4) - 2$ となる。展開すると $f(X) = X^5 - 6X^4 + 8X^3 - 2$ である。

$g(X) = X^5 - 6X^4 + 8X^3$ とおくと、導関数は $g'(X) = 5X^4 - 24X^3 + 24X^2 = X^2(5X^2 - 24X + 24)$ となる。$g'(X) = 0$ の根は $X=0$ (重複度2) と、$5X^2 - 24X + 24 = 0$ の解である $X = \frac{12 \pm \sqrt{24}}{5} \approx 1.42, 3.38$ である。

各極値における $g(X)$ の値を概算する。極大値をとる $X \approx 1.42$ では、$g(1.42) \approx 4.2 > 2$ となる。極小値をとる $X \approx 3.38$ では $g(3.38) < 0$ となる。したがって、関数 $y = g(X)$ のグラフは直線 $y = 2$ と区間 $(0, 2)$ で2回、区間 $(4, \infty)$ で1回交わる。これにより $f(X) = 0$ は実数根をちょうど3つ持ち、残りの2つは複素共役な虚数根となる。実数根の個数が $5-2=3$ 個となることが確認できる。

4. 一般の素数 $p$ に対する証明

与えられた多項式 $f(X) = X^3 \prod_{k=1}^{p-3}(X-2k) - 2$ について、Galois群が $S_p$ となることを以下の3つのステップで完全に証明する。

ステップ 1: $f(X)$ の $\mathbb{Q}$ 上での既約性

関数 $g(X)$ を $g(X) = f(X) + 2 = X^3 \prod_{k=1}^{p-3}(X-2k)$ と定義する。$g(X)$ を展開した式を以下のように表す。

$$ g(X) = X^p + c_{p-1}X^{p-1} + \dots + c_3 X^3 $$

$g(X)$ の非ゼロの根は $2, 4, \dots, 2(p-3)$ であり、これらはすべて偶数である。根と係数の関係により、係数 $c_m$ ($3 \le m \le p-1$)はこれらの偶数の基本対称式を用いて表される。したがって、すべての $c_m$ は $2$ の倍数である。

$f(X)$ を係数ごとに書き下すと以下のようになる。

$$ f(X) = X^p + c_{p-1}X^{p-1} + \dots + c_3 X^3 + 0 \cdot X^2 + 0 \cdot X - 2 $$

素数 $q = 2$ に対して Eisenstein の判定法を適用する。

  1. 最高次の係数は $1$ であり、$2$ で割り切れない。
  2. それ以外の係数 $c_{p-1}, \dots, c_3$ および $0$ はすべて $2$ の倍数である。
  3. 定数項は $-2$ であり、$2$ で割り切れるが、$2^2 = 4$ では割り切れない。

以上より、定理3 (Eisensteinの判定法) から、$f(X)$ は $\mathbb{Q}$ 上既約であることが示された。

ステップ 2: 実数根と虚数根の個数の評価

$f(X) = 0$ の根、すなわち $g(X) = 2$ を満たす実数根の個数を調べる。$p=3$ の場合は例1で既に実数根が1個、虚数根が2個であることが示されているため、以下では $p \ge 5$ を仮定する。

1. $g'(X)$ の根の分布
$g(X)$ は $X=0$ を重複度3の根として持ち、さらに $X = 2, 4, \dots, 2(p-3)$ を単純根として持つ。相異なる根は $1 + (p-3) = p-2$ 個存在する。Rolleの定理 (Rolle's theorem) より、各区間 $(0, 2), (2, 4), \dots, (2p-8, 2p-6)$ の内部に、導関数 $g'(X)$ の根が少なくとも1つ存在する。これらの区間は $(p-3)$ 個あるため、ここで $p-3$ 個の実数根が得られる。

また、$g(X)$ は $X^3$ を因数に持つため、$X=0$ は $g'(X)$ の重複度2の根である。$g'(X)$ の次数は $p-1$ 次であるから、これまでに見つかった $2 + (p-3) = p-1$ 個の根が $g'(X)$ のすべての根である。したがって、各区間 $(2j, 2j+2)$ において $g'(X)$ の根はちょうど1つであり、$g(X)$ はその区間でただ1つの極値を持つ。

2. 極値の評価
各区間内での $g(X)$ の極値の符号を調べる。区間 $(2j, 2j+2)$ 内の任意の $x$ について、$x-2k$ は $k \le j$ ならば正、$k \ge j+1$ ならば負である。負の因数の個数は $(p-3) - j$ 個となる。$p$ は奇素数であるため $p-3$ は偶数であり、$g(X)$ の符号は $(-1)^{p-3-j} = (-1)^{-j} = (-1)^j$ と一致する。

すなわち、$j$ が偶数のとき $g(X) > 0$ となり極大値を持ち、$j$ が奇数のとき $g(X) < 0$ となり極小値を持つ。

$j \in \{ 0, 2, \dots, p-5 \}$ を満たす偶数 $j$ について、区間 $(2j, 2j+2)$ の中点 $x = 2j+1$ における $|g(x)|$ の値を評価する。

$$ |g(2j+1)| = (2j+1)^3 \prod_{k=1}^{p-3} |2j+1-2k| $$

以上より、偶数 $j$ に対応する各区間において $g(X)$ の極大値は $2$ より厳密に大きい。

3. $g(X)=2$ の実数根の個数
中間値の定理 (intermediate value theorem) と $g(X)$ の単調性から、$g(X) = 2$ は各偶数 $j$ の区間 $(2j, 2j+2)$ にちょうど2つの実数根を持つ。該当する偶数 $j$ は $0, 2, \dots, p-5$ の $\frac{p-3}{2}$ 個存在するため、ここから $2 \times \frac{p-3}{2} = p-3$ 個の実数根が得られる。

奇数 $j$ の区間では極小値が負であり、$g(x) < 0$ を保つため根を持たない。定義域の両端については以下の通りである。

結論として、$f(X)$ の実数根の総数は $(p-3) + 1 = p-2$ 個となる。代数学の基本定理より $f(X)$ は複素数体 $\mathbb{C}$ 上で $p$ 個の根を持つため、残りの2つの根は互いに複素共役な虚数根である。

ステップ 3: Galois群の決定

$f(X)$ の $\mathbb{Q}$ 上の Galois群を $G = \operatorname{Gal}(K/\mathbb{Q})$ とする(ここで $K$ は $f(X)$ の分解体である)。

ステップ1より $f(X)$ は $\mathbb{Q}$ 上既約であるため、$G$ は $f(X)$ の $p$ 個の根からなる集合 $X$ に推移的 (transitive) に作用する対称群 $S_p$ の部分群であるとみなせる。

既約多項式の分解体 $K$ は $\mathbb{Q}$ の $p$ 次拡大体を部分体として含むため、拡大次数 $[K:\mathbb{Q}] = |G|$ は $p$ の倍数である。したがって定理4 (Cauchyの定理) より、$G$ は位数 $p$ の要素を持つ。$S_p$ における位数 $p$ の要素は、長さ $p$ の巡回置換 ($p$-cycle) に限られる。

さらにステップ2より、$f(X)$ の根のうちちょうど2つが虚数根であり、残りの $p-2$ 個は実数根である。複素共役をとる自己同型 $\sigma: \mathbb{C} \to \mathbb{C}, z \mapsto \overline{z}$ を分解体 $K$ に制限した写像 $\sigma|_K$ は、$G$ の要素である。この自己同型は $p-2$ 個の実数根をすべて固定し、2つの虚数根のみを入れ替えるため、根の置換群 $S_p$ の部分群として見たとき、まさに互換 (transposition) として作用する。

以上により、$G$ は推移的であり、かつ長さ $p$ の巡回置換と互換を含む $S_p$ の部分群であることが示された。補題5より、$G = S_p$ であることが結論付けられる。

$\blacksquare$

5. 引用文献